医療・介護分野のビッグデータの利活用についての法整備が進んでいる。
保健医療介護分野のデータの整備とその有機的な連結を図り、その保護を含む利活用のルールを定め、対象となる国民、現場の医療・介護従事者、保険者のほか、研究者、産業界や行政がデータを引き出し活用できるようにし、効果的・効率的な医療・介護サービスを提供しようとするものである。国民の健康寿命の延伸とともに、高齢化社会において、雇用・年金制度や医療・福祉サービスなどを持続可能な形で運営していくことが求められている。そのため、関連する公的データベースを連結・解析することにより、例えば医薬品の安全性の更なる向上や、治療の質の向上、新たなサービスの開発など、保健医療介護分野におけるイノベーションを進めること、あるいは地域包括ケアの実現などに向けた効果的な施策の推進が可能になると期待されているのである。
医療情報については、まず、高齢者医療確保法において、医療費適正化計画作成等の文脈の中で、「医療保険等関連情報」(①医療に要する費用に関する地域別、年齢別又は疾病別の状況等、②医療の提供に関する地域別の病床数の推移の状況等に関する情報)の整備と提供が定められた。レセプトや特定健診等の情報を元にしたデータベースのことである。また、これらの情報が匿名化され一定の基準で加工された「匿名医療保険等関連情報」を利用し、あるいは国、地方公共団体、大学その他の研究機関、民間事業者等が行う一定の業務のために提供できることも定められた(いわゆるナショナルデータベース(NDB))。
介護分野では、介護保険法において、「介護保険等関連情報」(①介護給付等の費用に関する地域別、年齢別又は要介護認定及び要支援認定別の状況等、②要介護認定・要支援認定における調査に関する状況等、③訪問介護等のサービスを利用する要介護者等の心身の状況、提供されるサービスの内容等、④地域支援事業の実施状況等に関する情報)についての調査・分析及び公表に関して定められた。また、これら情報を匿名化し加工した「匿名介護保険等関連情報」(いわゆる介護保険総合データベース(介護DB))の利用・提供も定められ、2020年10月からは高齢者医療確保法の「匿名医療保険等関連情報」と連結しての分析・提供が可能となった。
さらに、健康保険法において、保険者が保健事業を行うにあたって必要があると認めるときは、被保険者を使用しているまたは使用していた事業者等に対し、労働安全衛生法その他の法令に基づき保存している被保険者等に係る健康診断に関する記録の写しの提供を求めることができること、医療保険等関連情報に加え事業者等から提供される健康診断に関する記録の写し等を活用して保健事業等を行うことなどが明記された。また、入院患者に提供する医療の内容その他の「診療等関連情報」が匿名化された「匿名診療等関連情報」について、その利用及び提供についての規定が整備された。そして、この健康保険法の「匿名診療等関連情報」(いわゆるDPCデータベース」(DPCDB))は、2022年4月から前述した2つのデータベースとの連結が行われることになった。
DPC(Diagnosis Procedure Combination:診断群分類)データは、日本で入院医療費が1日当たりの定額払いとなる「DPC制度」で用いられているもので、DPCデータベースにはDPCに基づいた患者の臨床情報、なされた診療行為のデータが網羅され、入退院経路や退院時転帰、各種臨床スコア、手術・投薬・処置の実施日なども含まれているそうである。要は、特定の医療機関への入院患者に係る入院期間のレセプト情報や病態等に係る情報のデータベースである。
このほか、介護分野では介護DBに加え、通所・訪問リハビリテーション事業所からのリハビリテーション計画書等の情報、ケアの内容や栄養、口腔、認知症などの情報の収集が行われており、2021年4月から科学的介護情報システム(LIFE:Long-term care Information system For Evidence)として一体的に運用され、匿名化された情報が介護DBに格納され、データ連結が可能となっている。これらのデータを安全性確保にも配慮しつつ、幅広い主体による利活用を進め、学術研究や研究開発を推進するために、研究者等へのデータの提供、データの連結解析などに関する規定の整備が進められている。
健康保険制度は膨大な診療情報の蓄積と研究開発等のためのデータ利用にも貢献しています。健康保険を含む社会保険制度についてご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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