健康保険法においては、被保険者の被扶養者は被保険者とともにその被保険者に係る医療保険により保護されるという被扶養者の制度がある(共済組合等のその他の被用者医療保険においても同様)。この点、各個人が被保険者となる国民健康保険制度とは異なる。健康保険においては、被扶養者は保険料を負担することなく被扶養者に発生した保険事故についても保険給付の対象となるが、保険給付の受給権者はあくまで被保険者である。したがって、被保険者が死亡などにより資格を喪失すると、被扶養者の保険事故に係る保険給付も支給されなくなる。
被扶養者とは、日本国内に住所を有するか、又は日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者(外国において留学をする学生等)であって、次のいずれかに該当するものとされている。
①被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚を含む)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持する者。
②被保険者の3親等内の親族(①に該当する者を除く)であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持する者。
③被保険者と事実婚関係にある配偶者の父母及び子であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持する者。
ところで、夫婦共稼ぎが一般的となった現在、夫婦とも被保険者である場合の被扶養者(子や同居する親など)はその夫婦のどちらの被扶養者となるのだろうか。
この点、かつては基準が明確でない部分もあり、年収がほぼ同じ夫婦の子などについて、異なる保険者間でどちらの被保険者として扱うのか調整に手間取る間、子が無保険状態となってしまうケースもあったようである。しかし、2021年8月以降は新たな通達が適用され、被保険者の認定基準が以前よりは明確化された。
従来からの大まかな原則は、夫婦ともに被保険者であり、被扶養者とすべき者がいる場合には、年収の多い方の被扶養者とする、夫婦の双方の年収が同程度の場合には、届出により、主として生計を維持する者の被扶養者というものであった。そして、ここでいう年収とは、従来は前年分の年間収入とされていたが、現在は、「過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだもの」として評価することになっている。また、夫婦双方の年収が同程度の場合というのは、現在は、夫婦双方の「年間収入の差額が年間収入の多い方の1割以内である場合」がこれに該当するものとして明確化された。
被扶養者に関する届出を受けた保険者等は、被扶養者として認定しない場合にはその決定に関する通知を行う。その際、認定しなかった理由(被保険者の年収見込額等)、被保険者の標準報酬月額、届出日及び決定日を記載することが望ましいとされている。そして、他の保険者等が発出した不認定の通知とともに次に届出を受ける保険者等は、当該通知に基づいて届出を審査し、他の保険者等の決定に関し疑義がある場合には、届出を受理した日から原則として5日以内に不認定の通知を発出した他の保険者等と協議をする。この協議が整わない場合には、初めに届出を受理した保険者等に届出が提出された日の属する月の標準報酬月額が高い方の被扶養者とすることが定められている。この標準報酬月額が同額の場合は、被保険者の届出により、主として生計を維持する者の被扶養者となる。なお、標準報酬月額に遡及訂正があった結果としてこの決定が覆るような場合は、遡及が判明した時点から将来に向かって決定を改めることとされている。
社会保険制度の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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