2022年(令和4年)1月施行の雇用保険法の改正で、「高年齢被保険者の特例」の制度が試行的に導入された。「副業・兼業」に関する記事でも触れたが、2以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の労働者が、1つの事業主の適用事業における週所定労働時間が20時間未満であっても、2つ事業主の適用事業における週所定労働時間(それぞれ5時間以上であることが必要)の合計が20時間以上であるときは、その申出により、高年齢被保険者となることができるという制度で、この高年齢被保険者を「特例高年齢被保険者」という。

今後、こうした特例が一般被保険者にも導入されるのか、注視する必要はあるが、まずはこの特例高年齢被保険者となるための要件を詳しく見ておこう。

特例高年齢被保険者となるためには、次の4つの要件をすべて満たすほか、雇用保険法第6条の適用除外者(ただし第6条第1号は除く)に該当しないことが必要だ。
① 2以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の労働者であること
② 1の事業主の適用事業における1週間の所定労働時間が20時間未満であること
③ 2の事業主の適用事業(1週間の所定労働時間が5時間以上であるものに限る)における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること
④ 厚生労働大臣に申し出ること

要件②は、たとえ2つ以上の事業主の適用事業に雇用されていても、いずれか1つの事業主の適用事業における週所定労働時間が20時間以上であれば、通常の高年齢被保険者等となり、本件特例には該当しないということだ。また、③は、2つの事業主の適用事業に雇用されていて、いずれの事業所における週所定労働時間も5時間以上であるときに、当該2つの事業所における週所定労働時間を合算すると20時間以上ということであり、たとえ3つ以上の事業主の適用事業に雇用されていても、合算の対象となるのは2つの適用事業に限定されている。

手続は、原則として当該特例の適用を希望する65歳以上の労働者本人が、その住所又は居所を管轄する公共職業安定所長に届書(「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」)を、必要書類を添えて提出することによって行う。届出をするかどうかは任意である。事業主が労働者本人の委任を受けて代理人として届け出ることも可能だが、その場合でも、届出先は事業所の所轄の公共職業安定所長ではなく、当該特例の適用を受けて高年齢被保険者となろうとする労働者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所長となる。

特例高年齢被保険者の要件を満たす労働者は、この申出を行った日に、高年齢被保険者の資格を取得する。そして、特例高年齢被保険者は、基本的には高年齢被保険者と同様に取り扱われる。
特例高年齢被保険者が失業した場合には、高年齢求職者給付金が支給される。また、特例高年齢被保険者は、就職促進給付(常用就職支度手当、移転費及び求職活動支援費のみ)、教育訓練給付(教育訓練支援給付金を除く)、雇用継続給付(高年齢雇用継続給付及び介護休業給付)並びに育児休業給付の支給対象となる。
ただし、特例高年齢被保険者が2つの適用事業を同時に離職した場合は、当該2つの適用事業において支払われた賃金を合算して高年齢求職者給付金が計算され、1つの適用事業のみを離職した場合は、当該離職した適用事業において支払われた賃金のみを基礎として計算が行われるなど、特有の取扱いもある。

法の規定や頻繁に変わる通達の内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。

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