健康保険法における出産に関する保険給付として、被保険者が出産したときの産前産後休業期間中の所得保障を目的とした出産手当金のほか、被保険者又は被扶養家族が出産したときの出産に要する費用の負担の軽減と母体の保護を図る出産育児一時金(被扶養家族については家族出産育児一時金)の制度がある。
出産育児一時金は、被保険者が出産したときに政令で定める金額が支給されることになっている。その額は、2023年(令和5年)4月以降の出産については、原則として1児につき48万8千円である。ただし、産科医療保障制度に加入する病院等での一定の条件を満たす出産の場合には加算があり、3万円を超えない範囲内で保険者が定める額(現行1万2千円)が加算され、合計で50万円が支給される。多胎出産の場合は、胎盤数にかかわらず、胎児の数に応じて1児につき前述の額が支給される。
対象となる出産は、妊娠4箇月以上の分娩(妊娠1箇月は28日と計算し、4箇月目に入る妊娠85日目以降の分娩)とされ、母性の保護を考慮した給付であるため、正常分娩に限らず、死産、流産、人工妊娠中絶、早産も対象に含まれる。また、人工妊娠中絶は、それが経済的理由によるものかどうかは問われない。この点、療養の給付は療養を目的とすることから、単に経済的理由による人口妊娠中絶の場合に療養の給付が支給されないこととは扱いが異なる。なお、人工妊娠中絶であって単に経済的理由によらないものは、妊娠4箇月未満であっても療養の給付の対象となり得る。
労災保険法との関係では、健康保険法上は業務災害以外の疾病・負傷・死亡に関し保険給付を行うことになっているが、出産については業務災害に起因するものかどうかは問題とされておらず、例えば業務災害により早産し労災保険法による療養補償給付を受ける場合であっても、健康保険法による出産育児一時金は支給される。
1児につき1万2千円の加算が行われるのは、
①公益財団法人日本医療機構が運営する産科医療補償制度に加入する医療機関等(加入分娩機関)における医学的管理の下での出産であること、
②在胎週数22週に達した日以後の出産(死産を含む)であること
が条件とされ、加入分娩機関は分娩に関連して発症した重度脳性まひの子に対する補償等に備えるため、在胎週数が22週以降の1分娩当たり1万2千円の掛金を日本医療機構に支払うとともに、妊産婦に対して1万2千円(掛金相当額)を分娩費用に上乗せして請求することとなるため、当該額が出産育児一時金に上乗せして支給されるのである。
加入分娩機関の医学的管理下以外の出産(産科医療補償制度に加入しない医療機関又は自宅での出産など)、あるいは、在胎週数22週未満の出産については、加算の対象とならない。なお、流産は在胎週数22週未満において生ずるものであり、人工妊娠中絶も在胎週数22週未満において行われるものであることから、これらは当然加算の対象とならず、その場合の出産育児一時金の支給額は、加算のない48万8千円となる。
家族出産育児一時金の場合も支給額や考え方は同様であり、被扶養家族が出産した場合は被保険者に対して家族出産育児一時金が支給される。
社会保険制度の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
⇓