雇用保険制度は、戦後の混乱期に失業者の生活の安定を図る目的で制定された失業保険法を前身として、その後、経済・社会の変化を受けて、失業給付のみならず、失業の予防、就職の促進、雇用の継続等にも範囲を広げ、発展してきた。育児休業給付は、労働者が子を養育するために休業をした場合に支給される保険給付で、育児休業期間中の所得を保障することにより育児休業の取得を容易にし、育児のための失業を防止し、雇用の継続を図ろうとしたものだ。以前は介護休業給付と並び失業等給付に含まれる雇用継続給付の一部に位置づけられていたが、2020年(令和2年)4月の改正で分離・独立した給付となった。育児休業給付の支給額が増加しその重要性が高まっていることを踏まえ、育児休業給付の収支を他の失業等給付の収支と区分して明確化する必要に迫られたのだろう。
分離・独立したとは言っても、雇用の継続を図るという給付の基本的性格は変わっておらず、育児や家庭生活と仕事の両立を推進する上で、重要な制度だ。
一般に、労働者が出産する際は、労働基準法によって一定の産前・産後期間の妊産婦の保護と就労の制限が規定され、産前・産後期間中の労務に服さない期間は健康保険法による出産手当金が支給される。また、産後休業期間の終了後、労働者は子の養育のために必要な一定の期間、育児介護休業法によって認められた育児休業をする権利があり、この育児休業期間中の所得を一定程度保障するのが雇用保険制度による育児休業給付金だ。
育児休業給付金の支給は、雇用保険の被保険者(一般被保険者又は高年齢被保険者)が、その1歳未満の子(特別養子縁組の監護期間にある子等も含む。例外として、1歳2か月、1歳6か月又は2歳未満の子も対象となる場合がある)を養育するための休業をしたこと、また、原則として育児休業開始日前2年間に、みなし被保険者期間が通算して12か月以上あることが条件となる。
ここで、みなし被保険者期間とは、育児休業開始日を被保険者でなくなった日とみなして法の規定を適用して計算した被保険者期間に相当する期間で、大まかには育児休業開始日の前日からさかのぼって1か月ごとに、賃金支払基礎日数が11日以上であった期間を1か月の被保険者期間として計算する(それでもみなし被保険者期間が12か月に満たない場合は、賃金支払基礎時間数が80時間以上である期間も1か月として計算に含める)。
みなし被保険者期間の計算は、原則として育児休業開始日を基準としてその前2年間について被保険者としての実績を見る訳だが、例えば疾病、負傷、出産などにより引き続き30日以上賃金の支払を受けられなかった日数は、2年に加算できる(ただし通算して4年が上限)。また、2021年(令和3年)9月以降は、原則の計算方法ではみなし被保険者期間が12か月に満たなくても、産前休業開始日等(特例基準日)を基準としてその前2年間に12か月以上のみなし被保険者期間があれば、要件を満たすものとする例外も認められた。
就職から約1年後に出産した場合でも、1年以上就労してから産前休業に入れば育児休業給付金を受給できる可能性があることを覚えておこう。
育児休業給付金の額は、原則として休業開始時の賃金日額の50%だが、休業日数が通算して180日に達するまでの間に限り67%(約3分の2)となる。休業期間中に事業主から賃金が支払われた場合には、賃金との合計額が休業開始時賃金日額の80%を超えると、その超えた部分は不支給となる。手続は、原則として事業主を経由して所轄の公共職業安定所長に申請することになっているので、まず事業主と相談しよう。ただし、やむを得ない理由で事業主を経由して申請書を提出できないときは、被保険者が直接公共職業安定所長に申請することも認められている。
法の規定や頻繁に変わる通達の内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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