厚生年金保険(老齢厚生年金 – 年金額の改定)(その2)

老齢厚生年金の額は、受給権を取得する月の前の月までの被保険者であった期間が考慮される。そして、65歳以上70歳未満の受給権者は、年金を受給しながら引き続き被保険者となることが可能であり、その場合、被保険者が退職するなどしてその資格を喪失すると、一定のルールに従い年金額が改定されることは前に述べた。かつては、就労を継続する65歳以上の受給権者である被保険者は、被保険者資格を喪失するまでは増加した被保険者期間に相当する増額した年金額を受けられなかった。しかし、2022年(令和4年)4月施行の改正により、毎年一定の時期に年金額の改定を行う在職定時改定の制度が新たに設けられた。

以前は、保険事故が発生した後の事情(受給権取得以後の事情)は保険給付に反映させないという基本的な考え方もあり、また、被保険者期間が増加するごとに年金額を増加させることの事務的な負担なども考慮され、年金額の増額は資格喪失時の改定を待つことになっていた。しかし、高齢期の就労が推奨される社会となり、年金額の増額を退職を待たずに早期に反映させる制度が導入された。年金を受給しながら働く在職受給権者の経済基盤を充実させることにより、高齢期の就労をより魅力のあるものとする必要性が高まったのであろう。

在職定時改定の制度では、65歳以上の老齢厚生年金の受給権者が、毎年の基準日である9月1日に被保険者である場合(基準日に被保険者の資格を取得した場合を除く)に、基準日の属する月前の被保険者であった期間を計算の基礎として、基準日の属する月の翌月(つまり10月)から年金額を改定することになる。65歳未満で受給する特別支給の老齢厚生年金や、65歳未満の繰上げ支給の老齢厚生年金には適用されない。

なお、被保険者の資格喪失日から再び被保険者の資格を取得した日までの間に基準日が到来し、かつ、資格喪失日から再度の資格取得日までの期間が1月以内である場合には、例外的に年金額の改定が行われる(原則どおり、基準日の属する月前の被保険者であつた期間を計算の基礎として基準日の属する月の翌月から改定する)。この場合は、被保険者の資格喪失から1月を経過しないうちに再度資格を取得しているため、退職時改定が適用されないケースであり、たまたま転職時期が基準日前後に当たってしまったことにより改定のチャンスを逸してしまう不利益を考慮し、たとえ基準日に被保険者でない(又は基準日に被保険者の資格を取得した)場合であっても、在職定時改定の制度の適用を認めたものと思われる。

なお、在職定時改定の制度も、退職時改定の制度も、2以上の種別の被保険者であった期間を有する者については、各号の厚生年金被保険者期間ごと、被保険者の種別ごとに適用される。どういうことかというと、例えば第1号厚生年金被保険者期間を有する者が、私立学校の教職員に転職し、第4号厚生年金被保険者である間に65歳に達し、支給要件を満たして老齢厚生年金の受給権を取得したとする(この場合、第1号厚生年金被保険者期間に基づく老齢厚生年金と第4号厚生年金被保険者期間に基づく老齢厚生年金の受給権が発生する。なお、在職老齢年金の制度による支給停止についてはここでは触れない)。その後、当該者が私立学校を退職し、1月を経過しない間に再度民間企業に就職することとなり、再び第1号厚生年金被保険者となったとする。この場合、当該者は退職日から1月を経過する前に再度被保険者となっているが、退職時改定の制度は被保険者の種別ごと、各号の被保険者期間ごとに適用するので、被保険者資格を喪失し、第4号厚生年金被保険者となることなく1月を経過したときに、たとえその時点で第1号厚生年金被保険者であったとしても、第4号被保険者期間についての年金額の改定が行われる。また、第1号厚生年金被保険者のまま、次の9月1日を迎えると(70歳未満とする)、同日時点で被保険者である第1号被保険者期間についてのみ、在職年次改定により年金額の改定が行われる。結局、転職して異なる種別の被保険者期間を有する場合に、在職年次改定が適用されるのは、9月1日時点で被保険者である1つの種別の厚生年金被保険者期間についてのみである。

社会保険制度の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。

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