2025年(令和7年)10月に施行された「教育訓練休暇給付金」は、在職労働者が離職することなく、自発的に休暇を取得して職業訓練に専念する間の生活費を保障する雇用保険の制度である。従来の給付が費用の一部補助や失業者支援だったのに対し、雇用関係を維持したまま本格的な学び直し(リスキリング)に専念できる。制度開始から10か月が経過した2026年(令和8年)8月現在、主体的キャリア形成や中長期の能力開発を支援する仕組みとして実務で広く稼働している。
深刻な人材不足を抱える小規模企業において、高度なスキルを持つ新規人材を外部採用することは容易ではない。しかし本制度を活用すれば、在籍する有能な従業員を雇用したまま、専門知識や資格、語学などの能力を自発的に習得させ、帰還後に自社の業務へ還元させることが可能となる。これは優秀な既存人材の成長を促すとともに、社外流出を防ぎ定着を図るための新たな労務上の選択肢である。
支給対象となる教育訓練休暇は、第一に労働協約や就業規則等の社内規程に基づく休暇制度であること、第二に業務命令ではなく労働者の自発的な希望により取得し事業主が承認したものであること、第三に1回の期間が連続30日以上で原則無給であること、が要件となる。対象訓練は大学や専修学校の課程、国が指定する教育訓練講座のほか、語学留学など職業安定局長が定めるものである。なお、休暇中に副業や自社就労等で収入を得た日、有休や育休を取得した日は、日単位で給付金は支給されない。ただし、会社が受講料や受験料の実費の一部を補助する手当を支給することは、労働の対価ではないため受給を妨げない。
受給対象者は雇用保険の一般被保険者に限られ、高年齢被保険者や短期雇用特例、日雇労働者は対象外である。具体的な加入期間要件として、休暇開始日前2年間(病気や出産、休業等により30日以上賃金を受けられなかった場合は最大4年間まで加算可能)のみなし被保険者期間が通算12か月以上あること、かつ休暇開始前日を離職日とみなした被保険者であった期間(算定基礎期間相当期間)が通算5年以上あることの両方を満たす必要がある。したがって、一定期間継続して雇用保険に加入してきた従業員が主な対象となる。
給付額は、原則として休暇開始日前6か月間の賃金ベースで算定される基本手当日額相当額である。支給日数は加入期間に応じて90日、120日、150日のいずれかの所定給付日数を限度とし、休暇開始日から起算して1年の受給期間内に教育訓練休暇を取得した日数分について支給される。
導入において最も留意すべき点は、本給付金を受給すると休暇開始前のすべての雇用保険被保険者期間が原則としてリセットされる点である。被保険者期間が通算されなくなるため、復帰直後に会社都合の解雇や倒産等により離職せざるを得なくなった場合、失業手当(基本手当)の所定給付日数が大幅に減少する、あるいは受給資格を失うといった労務上のリスクが生じる。ただし、このリセットは求職者給付等の受給資格に限定されたものであり、育児休業給付や介護休業給付のみなし被保険者期間、通常の教育訓練給付金の支給要件期間の算定には影響せず通算可能である。
本制度は、在籍のまま本格的な能力開発を進められる有益な仕組みである一方、労働者には将来の受給権利に関わるリスクを伴う。そのため制度導入や申請相談時、経営者はメリットだけでなくリセットによるリスクについてもハローワーク等で確認し、従業員への懇切な説明と誠実な協議を通じて、労使の確固たる合意を形成した上で、計画的に手続きを進める姿勢が重要である。
労働・社会法制の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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