育児介護休業法(事業主が講ずべき措置)

少子高齢化が一段と進行するなか、労働者が仕事と育児・介護を両立できる環境の整備は、企業の持続可能な成長において避けては通れない最優先課題となった。これに対応すべく、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児介護休業法)」は近年、立て続けに改正が行われてきた。ここでは、現時点(令和8年8月)において既に施行されている事業主の義務的措置を中心に、その概要と実務上の注意点を改めて整理する。

  1. 妊娠・出産等の申出時における個別の周知・意向確認等(法第21条)

令和4年4月1日の改正施行により、労働者(本人または配偶者)から妊娠・出産等の事実の申出があった際、事業主はその労働者に対し、育児休業制度等に関する個別の周知および取得意向の確認を行うことが義務付けられた。これは、制度の不知や職場の雰囲気による取得控えを解消し、適切な時期の取得を促すことを目的とした措置である。

周知すべき事項は、育児休業に関する制度、育児休業申出の先、育児休業給付に関すること、および休業期間中の社会保険料の取扱いの4点とされている。周知・意向確認の方法については、面談(オンライン可)、書面交付、ファクシミリ、または電子メール等(労働者が希望する場合に限る)のいずれかとされている。

さらに、直近の改正である令和7年10月1日からは、この措置が大幅に強化された。事業主は、単なる制度周知にとどまらず、「就業条件に係る個別の意向確認と配慮」を行うことが義務となった。具体的には、始業・終業時刻の変更、就業場所、業務量、労働条件の見直し等について労働者の意向を把握し、仕事と育児の両立が図れるようその意向に配慮しなければならない。意向の確認は面談や書面等で行われ、確認された意向を理由とする解雇その他の不利益な取扱いは厳に禁じられている。

  1. 雇用環境の整備に関する措置(法第22条第1項)

令和4年4月1日施行の改正により、育児休業の申出が円滑に行われるようにするための「雇用環境の整備」が事業主に義務付けられた。これは、実際に育児期の社員がいるか否かにかかわらず、すべての事業主が講じなければならない全社的な体制づくりの義務である。

具体的には、以下のいずれかの措置を選択して講じることが求められている。

  • 育児休業に係る研修の実施
  • 育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
  • 自社の労働者の育児休業取得事例の収集および提供
  • 育児休業に関する制度および取得促進に関する方針の周知

これらの措置は、研修の実施や窓口の設置を通じて、職場全体で育児休業への理解を深め、労働者が気兼ねなく制度を利用できる土壌を醸成することを目的としている。なお、令和7年4月からは、介護休業に関しても同様の雇用環境整備が義務化されており、企業には育児・介護双方における包括的な体制整備が求められている。

  1. 育児休業の取得の状況の公表(法第22条の2)

令和5年4月1日の改正により、常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主に対し、毎年少なくとも1回、自社の男性労働者の育児休業等の取得状況を公表することが義務化された。

この公表義務は、企業の取組を「見える化」することで社会的な機運を醸成することを目的としていたが、令和7年4月1日施行の改正により、その対象範囲が拡大され、対象となる事業主の規模が「1,000人超」から「300人超」に引き下げられた。

公表すべき内容は、男性労働者の「育児休業等の取得率」または「育児休業等および育児目的休暇の取得率」であり、自社のホームページ等のインターネットを利用した方法で、一般の人が閲覧できる形で行う必要がある。令和8年8月現在、従業員300人を超える企業にとって、この公表は法を遵守していることを示す最低限の基準であり、人材確保における企業の魅力を左右する重要な指標となっている。

  1. 3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者等に関する措置(法第23条の3)

令和7年10月1日から、新たな義務的措置として新設されたのが、3歳から小学校就学始期に達するまでの子を養育する労働者に関する措置である。この改正により、事業主は柔軟な働き方を実現するための複数のメニューの中から、2以上の措置を選択して導入し、労働者がその中から1つを選択して利用できる体制を整えることが義務付けられた。

選択の対象となる措置(対象措置)は、以下の5つである。
①始業・終業時刻の変更(時差出勤)またはフレックスタイム制
②在宅勤務等(テレワーク)(月10日以上利用可能であること)
③育児のための所定労働時間の短縮措置(短時間勤務)(原則1日6時間)
④新たな休暇の付与(養育両立支援休暇)(年10労働日以上)
⑤保育施設の設置・運営その他これに準ずる便宜の供与

事業主は、労働者の子が3歳に達するまでの適切な時期(正確には、子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの一年間)に、これらの措置の内容を個別に知らせるとともに、労働者の意向を確認するための面談等を実施しなければならないこととされた。ここでも、確認された意向を理由とする不利益な取扱いは厳しく制限されている。

まとめと事業主への注意喚起

以上の措置は、すべて現行法において事業主に課された「法的義務」である。法第56条に基づき、厚生労働大臣は事業主に対し報告を求め、助言、指導または勧告を行う権限を有しており、勧告に従わない場合にはその企業名が公表されることもある。これは企業のブランド価値や社会的信用に直結する重大なリスクである。

また、令和7年の改正では、これら一連の新設義務に関して、事業主と労働者との間で紛争が生じた場合、都道府県労働局長による紛争解決の援助や調停の対象にも追加された。これは、制度の形骸化を許さず、実効性のある運用を求める国の強い姿勢の表れと言える。

実務においては、就業規則の整備といった形式的な対応だけでは不十分である。特に「個別の意向確認と配慮」においては、管理職の理解不足から生じる「パタハラ・マタハラ」等の言動によって就業環境が害されないよう、ハラスメント防止措置(法第25条)を徹底する必要がある。

これらの法改正は、単なる労働規制の強化ではなく、多様な人材がその能力を発揮し続けられる職場への転換を促すものと言えるだろう。事業主は、これらの義務的措置を適切に運用し、労働者が安心して仕事と家庭を両立できる環境を提供し続けることで、優秀な人材の定着と企業の持続的な発展が可能となることを理解すべきである。


労働・社会法制の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。

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