厚生年金保険について、基礎的な知識を整理しておく。
まず、厚生年金保険は、会社などの事業所(船舶を含む)に雇用される労働者を対象とした被用者年金制度で、老齢、障害又は死亡というリスクに備え、一定の基準に従がい保険給付を行う公的年金制度である。国民年金が全国民を対象に基礎年金(土台部分)を支給するのに対し、厚生年金保険はその上乗せ部分として報酬に比例した給付を行うことが特徴である。
国民年金のみに加入する者(第1号被保険者)は自ら国民年金の保険料を負担し納付するが、厚生年金保険に加入すると国民年金の第2号被保険者となり、保険料は事業所と被保険者が折半して負担し、全額を事業所がまとめて納付するため、被保険者が別途国民年金の保険料を納付する必要はなくなる。
厚生年金保険の給付の一つである老齢厚生年金は、次の要件を満たすときに支給される。
①厚生年金保険の被保険者期間を有すること(1か月以上被保険者期間があれば足りる)
②65歳以上であること
③10年以上の受給資格期間*を満たしていること
*受給資格期間とは、原則として、保険料納付済み期間と保険料免除期間を合算した期間のことであるが、特例として合算対象期間(通称「カラ期間」:過去の年金制度で加入が任意だった時代に加入しなかった期間)も含めて10年以上あれば、受給資格期間を満たす。
このほか、過去に60歳から老齢年金を支給していた時代があり、経過措置として生年月日その他の条件を満たせば65歳未満の者に支給される「特別支給の老齢厚生年金」があるが、ここでは詳細を割愛する。
老齢厚生年金の支給額は、大きく分けて基本年金額と加算額があるが、ここでは基本年金額がどの程度なのかを把握しておきたい。老齢厚生年金の基本年金額(被保険者期間が平成15年4月以降の場合)は、基本的には次の式により計算される。
老齢厚生年金の額
=平均標準報酬額 x 給付乗率(5.481/1000) x 厚生年金保険の被保険者期間の月数
平均標準報酬額は、大まかには各月の標準報酬月額+標準賞与額を被保険者期間の月数で除した金額である。正確には物価や賃金変動を考慮して計算時点の価値に換算しなおすための係数(再評価率)を乗じて計算する。
ここでは保険料負担額に対しどの程度の規模の給付を期待できるかを把握するため、最も単純な想定で計算してみると次のようになる。
想定:
- 毎月の給与額262,300円(厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2026年版発表データ)」による大卒初任給(全企業規模平均))→標準報酬月額は260,000円
- 加入期間40年
- 加入期間中の賞与・昇格・昇給なし→したがって、平均標準報酬額は260,000円
- 物価・賃金変動なし
老齢厚生年金の額 = 260,000円 x 5.481/1000 x 480月 = 年額684,029円(月額約5.7万円)
年金は被保険者が生存している限り、生涯保証されます。
ここで、被保険者が加入期間中に負担した保険料額と年金額を比較してみよう。
標準報酬月額260,000に対し毎月の保険料の被保険者負担分は23,790円
被保険者が負担した保険料総額 23,790 x 480月 = 11,419,200円
11,419,200円 / 年金額684,029円 = 16.7
つまり、物価・賃金変動が一切ないという非現実的な設定でも、年金受給権が発生してから17年弱で「元が取れる」勘定になる。平均寿命が80歳を超えていることを考えれば、妥当な数字と言えそうだ。
実際には、物価・賃金が変動しないということはあり得ないので、40年後時点の年金額は物価・賃金の変動(通常は上昇)を受けて調整(増額)した額となることが見込まれる。例えば令和8年時点で40年前の標準報酬月額を再評価する場合、約1.4倍に換算して計算されている(生年月日により再評価率は異なる)。
なお、日本の年金制度の考え方は、自分が払った保険料が積み立てられて戻ってくる「積立方式」ではなく、現役世代が支払う保険料に国の補助(税金)を加えて高齢者の年金や弱者への給付を賄うという方式をとっている。したがって、実際に支払った保険料額と将来受けられる年金額とを直接結び付けて考えるのはあまり意味がない。日本の社会保障制度は、現役世代が中心となりつつも、社会全体として皆が皆を支え助け合うという考え方で成り立っている。どの程度の給付と保険料負担が適切なのかは、政策的な判断で決まることになる。
近年、社会の高齢化が進み、現役世代の負担が重くなっているのは事実である。特に中・低所得者層にとって社会保険料負担が重すぎるのではないかという指摘には真剣に向き合って考える必要があるだろう。公平で納得感のある負担配分を実現するために、国民一人ひとりが当事者意識を持って政策動向を把握し、議論に参加することが望まれる。
労働・社会法制の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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