副業・兼業をする人が増えている。労働市場の流動化が進む中で、既成の概念にとらわれないさまざまな働き方を求める人が増えているのだろう。45歳以上のミドルシニアの3分の1以上が副業・兼業をしたいと考えているとの調査結果もある。
副業・兼業を指向する理由はいろいろある。時間を有効に活用してスキルアップと収入増を目指したいという理由は容易に想像できる。また、子育てや介護と仕事の両立を模索する中で、自分の都合のよい時間にできる仕事を組み合わせて生計を立てたいと考える人もいるだろう。雇用者の立場からは、労働者の自主性を促し士気を高め、自社で得られない知識・スキルを獲得させる、より高い収入を得られる職への転職を引き留め優秀な人材を確保できるなどのメリットもあろう。社会的に見てもオープンイノベーションや起業を促進し、経済の活性化に役立ちそうだ。
政府も「働き方改革」を進める中で、副業・兼業の普及・促進に舵を切った。2018年1月に副業・兼業について留意すべき事項をまとめたガイドラインを策定(2020年9月、2022年7月に改定)し、モデル就業規則にも副業・兼業についての記述を加えた。補足資料として「Q&A」が公表されており、これも2022年7月に改定されている。
これら資料を参考に、多様な働き方が推奨される今後の時代の労務管理において留意すべき点を整理しておこう。

まず、労働時間の管理について。

労働基準法第38条は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定している。この「事業場を異にする場合」とは、もちろん事業主を異にする場合も含む。したがって、複数の事業場で働いている労働者については、労働時間を通算したときに法定労働時間を超えて働かせる場合には、使用者は、自社で発生する法定外労働時間について36協定を締結し、割増賃金を支払わなければならない。その義務を負うのは、それぞれの法定外労働時間を発生させた使用者である。
一般的には、通算することにより法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、その義務を負うことになる。ただし、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が法律上の義務を負うこととなり注意が必要だ。詳しくは「Q&A」が具体例を挙げて説明しているので確認しておきたい。
ところで、36協定を締結して労働時間を延長する場合に、1箇月あたり45時間、1年あたり360時間(3箇月を超える1年単位の変形制を採用する場合は1箇月あたり42時間、1年あたり320時間)の限度時間を超えないこと、また、特別条項を設ける場合には1年について労働時間を延長して労働させることができる時間が720時間の限度時間を超えない範囲としなければならないが、複数の事業場で労働する場合のこれらの限度時間の適用はどうなるだろうか。
実は、36協定は、事業場を単位としてそれぞれの事業場において使用者が労働組合等との間で書面により協定するものであり、36協定による時間外労働等に関する規律も、基本的には事業場を単位として適用されることになる。したがって、それぞれの事業場における時間外労働が36協定に定めた延長時間の範囲内であるか否かについては、複数の異なる事業場における労働時間を通算して判断する必要はない。
また、休憩(労働基準法第34条)、休日(労働基準法第35条)、年次有給休暇(労働基準法第39条)の適用についても、これらは労働時間に関する規定ではないので、複数の異なる事業場における労働時間を通算して考えるのではないことを確認しておきたい。

法の規定や頻繁に変わる通達の内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。

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