遺族基礎年金を受ける遺族の要件に関連し、いくつかイレギュラーなケースを見ていこう。以下の考え方は国民年金法及び厚生年金保険法において基本的に共通である。
まず、配偶者には事実婚の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者)も含むことは前に述べた。いわゆる内縁関係にある者のことであるが、もう少し詳しく言うと、当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意があり、かつ、そうした事実関係の存在が認められることが必要と解されている。そして、こうした内縁関係が認められる場合であっても、当該関係が近親婚など反倫理的な関係である場合は、原則として事実婚関係にあるものとは認定しない取扱いとなっている。ただし、次の全てに当てはまるような特殊なケースでは、過去の判例等を踏まえて慎重な審査が行われている。
①3親等の傍系血族間の内縁関係であること
②内縁関係が形成されるに至った当時の社会的、時代的背景に照らし不当とは認められないこと
③地域社会に抵抗なく受け入れられてきたものであること
④40年程度以上の長期間にわたって安定的に継続されているものであること
以上の4つの基準は、2007年(平成19年)の最高裁における判例(遺族厚生年金に係るもの)を元にしており、遺族基礎年金についても適用される。当該判例では、社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者にこれを支給することが、遺族厚生年金の社会保障的な性格や法の目的にも適合するということを前提として、特定の3親等の傍系血族間の内縁関係について、反倫理性、反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には、近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべきとの判断がなされた。
次に、いわゆるDV被害者について、遺族年金等の生計同一に関する認定要件において特別な配慮がなされている。対象となるのは、次のいずれかに該当する者で、被保険者等と住民票上の住所を異にしているDV被害者である。
①配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(「DV防止法」)に基づき裁判所が保護命令を行ったDV被害者
②婦人相談所、民間シェルター、母子生活支援施設等において一時保護されているDV被害者
③DVからの保護を受けるために、婦人保護施設、母子生活支援施設等に入所しているDV被害者
④DVをきっかけとして、秘密保持のために基礎年金番号が変更されているDV被害者
⑤公的機関等が発行する証明書等を通じて上記①~④に準ずると認められるDV被害者
これらの者は、DV被害者であるという事情を勘案して、被保険者等の死亡時という一時点の事情のみならず、別居期間の長短、別居の原因やその解消の可能性、経済的な援助の有無や定期的な音信・訪問の有無等を総合的に考慮して生計同一の有無を判断することとされており、具体的には、単身赴任、修学や病気療養等のやむを得ない事情により住民票上の住所が異なっている場合と同様に、一定の条件を満たしており、その事情が解消したときは起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるときに相当するものとして、生計同一関係を認める扱いとなっている。
ただし、一時的な別居状態を超えて、消費生活上の家計を異にする状態(経済的な援助も、音信も訪問もない状態)が長期間(おおむね5年を超える期間)継続し固定化しているような場合は、原則として、生計同一関係は認めないとされている。また、これらの原則による判断が社会通念上妥当性を欠くことになる場合は、個別の事情を総合的に考慮して個別に判断することになっている。
社会保険制度の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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