老齢基礎年金の支給の繰上げは、老齢年金給付を普通より早く受けられるというメリットはあるが、一定額が減額されて一生続く(したがって、長生きをすれば生涯受け取れる年金額は繰上げをしない通常の年金額を下まわる可能性がある)ということのほかに、いくつか注意すべき点がある。
① 国民年金への任意加入は認められなくなる。
国民年金は、60歳に達した後も保険料を払い続けることによって、年金額が満額に達するまでは年金額を増やすことができる任意加入の制度がある。その他、海外に居住する20歳以上65歳未満の者等も任意加入することができる。しかし、老齢基礎年金の繰上げ支給の請求をすると、以後、任意加入はできなくなる。また、任意加入被保険者は、老齢基礎年金の支給の繰上げを請求することはできない。
②一定の障害年金給付は受けられなくなる。
障害年金給付(障害基礎年金及び障害厚生年金)の受給要件にはさまざまなパターンがあるが、65歳到達日の前日までに一定の障害状態に該当することが支給要件となっている一部の障害年金給付は、老齢基礎年金の繰上げ支給の請求をすると受けられなくなる。
③寡婦年金の支給は受けられない。
寡婦年金を受けている者が老齢基礎年金の支給の繰上げを請求すると、寡婦年金は失権する。また、老齢基礎年金の支給の繰上げを請求した者は、寡婦年金の支給対象とならない。
④保険料の追納はできなくなる。
保険料の免除を受けていた者は、一定の条件の下、免除された保険料の全部又は一部を、承認を受けて後から納付することができるが、老齢基礎年金の受給権者は追納をすることはできず、支給の繰上げを請求した者も同様に追納はできなくなる。
⑤特別支給の老齢厚生年金が支給停止される場合がある。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の支給の繰上げは、原則として同時に請求しなければならないが、特別支給の老齢厚生年金(経過措置として生年月日に応じ60歳台前半に支給される老齢厚生年金)のうち一定のものについては支給停止となることがあり、繰上げの仕方にも一定の制約がある場合もある。
特別支給の老齢厚生年金との関係は複雑な側面があるので、該当する場合には詳しい説明を受けて考えた方がいいだろう。
なお、付加年金(第1号被保険者が付加保険料を納付した期間について、老齢基礎年金の上乗せ給付として、老齢基礎年金に付加して支給されるもの)については、老齢基礎年金の支給の繰上げを請求すると、繰り上げ支給の老齢基礎年金と同様の減額率により減額されて支給される。
一方、振替加算(大まかには、老齢厚生年金の配偶者加給年金額の対象となっていた配偶者が65歳に達すると、老齢厚生年金の配偶者加給年金額は支給されなくなり、当該配偶者自身の老齢基礎年金に一定額が加算されて支給される制度)については、当該配偶者が老齢基礎年金の支給の繰上げを請求しても、振替加算が繰り上げて支給されたり支給額が減額されたりすることはない。振替加算は、原則通り、当該配偶者(老齢基礎年金の受給権者)が65歳に達した日(あるいは当該受給権者の生計を維持していたもう一方の配偶者が所定の要件に該当した日)の属する月の翌月分から加算される。
社会保険制度の細部の規定や頻繁に行われる見直しの内容など、複雑でなかなかわかりにくいものです。ご自身で確認するよりは専門家に聞いた方が早い場合も多々あります。ご質問、気になることなどがありましたら、お気軽にご相談ください。
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